見知らぬ女性2人とクリムゾン・タイフーンで戦った話

 どうも皆さんはじめまして、なびるなです。

 え?はじめましてじゃない人もいるって?

 うれしいこと言ってくれるじゃないの!

 でも今回ははじめましてでよいのである。何故ならそういうお話をするからだ。

 だから本日ははじめましての方もそうでない方もなびるなとははじましてという気持ちを持って接していただきたいと思う。

 ビギナーズラックってもんもあるからよぉ。

 さて、皆さんは映画をみるだろうか?

 私も僭越ながら人並みには映画というものを見る方だと自負している。

 それでは、「パシフィック・リム」という映画をご存じの方はどれくらいいるだろうか?

 なるほど、随分と減ってしまったようですね。

 まぁ、見ていなくても特に構いはしないですし、その説明はこの後しっかりするので今のところは「怪獣をロボットでぶっ倒す映画」くらいの認識で十分だ。

 さて、話はまだアップでライジングもしていなかった頃に遡る。

 その日、私は友人達(4人くらいだったかな?)と友人Uくんがバイトしている居酒屋へと遊びに行った。

 さぁ、ここから気を付けていただきたい。

 今回の登場人物の人間関係は少々複雑だ。理解しにくい。

 僕が一体、君と好きな人に対してどの立ち位置の人間なのかを理解することくらいに難しいが、どうにかついてきてほしい。そして百年続いてほしい。

 案内されたテーブルで酒を煽っていると、近くのテーブルに女性3人のグループが着いた。

 そのグループにいたのが我々の共通の友人Sくんの元彼女のKさんである。残りの2人はKさんの友人達。

 さて、このKさんとなびるな、あまりにも関係が遠いように感じられる方も多いとは思うが、実はそんなことなく、我々とKさん自体が仲が良い。

 そうなると当然の如く、我々とKさんは話に華を咲かすべきである。それが世の理だ。そうだと君達も思うだろう?

 しかし、Kさんの友人2人ははっきり言って全く知らない人間だ。だから、この両者のグループがくっついて卓を囲むとするのであれば彼女らは残念ながら明らかな異物であり、疎外感を味わうこと間違いなしである。

 そもそも我々は奥手な人間ばかり、女の子とお話しするなんて想像するだけで頬は真っ赤に染め上がり、隣に座ろうものなら緊張して声を発することも出来ず、やがて息が止まり119番のサイレンを聴きながら意識を失うこと必至である。

 あ、余談ではあるが、私は酒はそれなりに好きなのだが飲むとすぐ顔が赤くなってしまう。赤くなったところで意識は割としっかりしているタイプだ。

 そういう時は得てして女性の方が「なびるなくん顔が赤いよ、大丈夫?」と声を掛けていただくのだが、その時のド定番の返しとして「○○さんの隣にいたから照れちゃって///」というのがある。

 そういうと女性側の反応というのが実に様々であり、人によっては冷淡になることもあれば、逆にちょっと本気で受け取る人もいる。よろしければ皆さん試してみると良い。一体、なんの話なんだか。

 話を戻そう。

 息を止まり119番を呼びつけた私は意を決して、3番テーブルに単独で乗り込んだ。

「よっ!Kちゃん久しぶり!元気してた?」

「なびるなくん久しぶり~」

 ということで今、このテーブルには見目麗しき女性3名となびるなの計4人という状況と相成った。

「こっちは大学の友人の~」

 申し訳ないが欠片も名前を覚えてはいない。私は元来、人の名前や顔を覚えるのが苦手なのだ。

 いや、人だけではなく、そもそも物覚えが悪い。コテコテの理系人間なので文系の暗記系科目は全くと言っていいほどできなかった。本人の努力が足りてなかったのは間違いないと思いますけどね。

「ふ~ん、よろしく」

 その後、私達は楽しく女子会トークを繰り広げていたわけだが、その間、不思議なことに一切、援軍はやってこなかった。ピットくんだってもうちょっと援軍突撃させるだろ、ってくらい来なかった。

「そうだ、なびるなくん、あの話してよ。あの腕が3本の奴」

「ああ、クリムゾン・タイフーンね」

 この話は以前にYさんの前で披露したことのある話だった。

 さらに時を遡ること1万光年、友人とその彼女という組み合わせ4組に私とあと変な奴(男)を含めてBBQをするというそれはもうこの世の末と思われるとようなイベントが催されたことがある。偶然にもその当時、彼女がいなかった私ではあるがお呼ばれしたので、ノコノコと男独り身で参加したのだった。

 いや、この表現をするとまるで彼女がいた時期があるのではないかと誤解されてしまうかもしれないが、生まれてこの方、他人に頼らずこの身一つで人生の修羅場を潜り抜けてきた私は彼女というものが今に至るまでいたことはない。男は一匹狼、この狼をカムイと呼ぶこととする。

 さらに誤解を招かない為に予め断っておくが変な奴(男)と私が付き合っていたわけでもない。生まれてこの方、基本的にはノーマルタイプ、得意な技はおんがえし※廃止 で生きてきた私は今に至るまで彼氏がいたことはない。男は一匹狼、この狼をカムイと呼ぶこととする。

 その場にKさんもいたのでその時にも私はクリムゾン・タイフーンの話をしていたのである。

 察しの良い読者諸君ならお分かりかと思うが、このクリムゾン・タイフーンというのがパシフィック・リムに出てくるロボット(劇中ではイェーガーと呼ばれる)の内の1機なのだ。

 それがかっこいいんだ。

「じゃあ、せっかくなのでクリムゾン・タイフーンの話をさせていただくと、まず普通に考えて3本……」

「Kちゃ~ん」

 ここでクリムゾン・タイフーントークの鉄板の語り出し、「3本目腕どこにあるか問題(出典:なびるな大学ロボット工学科)」を提唱している途中にKさんはボクの元テーブル、つまり、本来、味方たりうる陣営から裏切りの呼び出しを受けたのだ。

 Kさんはそれに何の疑問も覚えることなく、席を移動してしまったのだ。

「えーっと、もし3本腕があるとしたら3本目の腕ってどう生えてると思う……?」

 単純な足し算と引き算である。

Q.ついさっきまでこのテーブルにはなびるなとKさん、友人①、友人②の4人がいました。

 そこにクリムゾン・タイフーンが配置されました。

 その後、Kさんは席を立ち、別のテーブルへ移動してしまいました。

 今、このテーブルには何が残っているでしょう?

 チッチッチッチ~はい、答え合わせ~!

A.なびるなと友人①と友人②とクリムゾン・タイフーン

 そう、ボクと初対面の女性2名とクリムゾン・タイフーンがこのテーブルには残されてしまったのである。

「うーん、こうかなぁ?(胸の前で腕をピロピロ)」

 先程、”この世の末”という表現を使わせていただいたが、それは間違っていたと言わざるを得ない。末というのは自分が主観的に末だと感じたところで本当にそこが末であると確認する術を我々人類は持ち合わせていないのだから、その真偽を図ることなど当然、できるわけもないのだ。

「普通はそうだよね。あとはこうとか(背中からピロピロ)」

 そして、その末というのは新たな局面へと至った時に日々アップライジングを重ねるものなのである。ボクの末はこの瞬間、更新された。

「でも、クリムゾン・タイフーンはここから3本目の腕が生えてるんだよ(右の脇から左手をピロピロ)」

 これはきっと怪獣に襲われ世界滅亡の危機に瀕していたパシフィック・リムの世界を上回る絶望的な状況だった。

「普通、そんなバランスの悪いところから腕を出すなんて発想できる?意味が分かんないよね。でもそれが最高にかっこいいんだよ。でね、パシフィック・リムの他のロボットとの違いってのが、1つのロボットを操作する為に2人のパイロットが乗って1人が右脳、1人が左脳で操作することで負荷を軽減して、その代わり、2人の意識や記憶が混ざるっていう中々、よくできた操縦システムを取ってるんだけど、ねぇ、この話続けて大丈夫?本当に?じゃあ続けるよ。このクリムゾン・タイフーンに乗ってるのは中国の三つ子なの。お前、さっき右脳と左脳って言ったじゃん、三つ子の3人目は一体何やってんだよ、って設定の時点でツッコミどころが満載なのも最高だね。また、パシフィック・リムのロボットてのはどれも武骨でかっこいいという渋いだとか異質な感じなデザインなんだけど、その異質の中でもさらに一つ抜けて頭のおかしいデザインをしてるのがクリムゾン・タイフーンで腕が3本あって目は1つ、そして膝は逆関節、あ、逆関節ってわかる?膝を曲げると人間って膝は前に出るように曲がるじゃん?クリムゾン・タイフーンは逆で曲げると後ろに飛び出るの、まるで獣の脚みたいで……」

 ボクは最後に託されたクリムゾン・タイフーンの話題をバカのように喋り続けていた。結局15分くらい、Kさんが戻ってくるまでの間、クリムゾン・タイフーン1本で話を切り抜けた。

 クリムゾン・タイフーンの映画での総出演時間が2分40秒しかないのにそれを伸ばして伸ばして延々とボクは喋っていたのである。

 はっきり言って見知らぬ女性2人は引いていたと思う。

 そして、ボクも引き際を見失っていた。

 でも、席を立てば、ボクは麗しきレディ2名に対して全く興味がないんだよという失礼を与えてしまうのだから、席に残って、残ったが最後、宙ぶらりんになったクリムゾン・タイフーンを語り続けるしかないのである。

 人生において、最も大事なものは何か?という有名な問いかけがある。

 富か名誉かプラレールか、あるいは家族か、それとも……そう、ボクにとってはプライドだった。

 人生はいつだって己が世界を守る戦いだ。

 その為だったら、ボクはいつだってクリムゾン・タイフーンに乗って世界の危機を救いにやっていくのだ。

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