出前/ショートショート

「ただいま」

 と言っても誰もいない。スーツを脱ぐと革靴もまとめて洗濯機へ放り込む。

 ったく、なんで人間様の仕事がこんなにあるんだ、やってらんねぇ。

 まっ裸で冷蔵庫を開くが、中には缶ビールしか入っていない。

 時刻は夜11時を指していた。心身共に疲弊しているし、仕方ない、出前を取ろう。

「もしもし、出前を頼みたいんだけど」

『ゴ注文ヲドウゾ』

「醤油ラーメンと餃子、あ、半チャーハンも」

『ゴ住所ヲオ願イシマス』

「地球、日本……」

『現在ノ混雑状況デスト西暦1万6026年、7月4日午後11時12分、誤差2分以内デノオ届ケトナリマス』

 通話を切るとベッドに倒れ込んだ。

 全く、AIはなんでこうも口調が堅苦しいのだか。

『イツマデオ眠リニナリマスカ』

 ちょっとだけだ。ちょっとだけ。

「280年後、ぴったりだ」

『承リマシタ』

 手足の先まで冷たくなっていく冷気に心地よさを感じ、私は死んだように眠りについた。ぐー。

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