#なびるな世界一周 へ行く〜第7話ペルー(リマ)編〜

#なびるな世界一周

 不法占拠。

 

 ペルーのドライブ中に見る景色の解説で1番多く出てきたのがこの単語だ。

「あそこの正面に出ている店は全部、不法占拠」

 そう解説してくれたのは日系3世で日本語ペラペラのガイドSさんだ。

 

 聞くところによると国の土地を囲って、数年間権利を主張し続けると、その土地がもらえるらしいのだ。

 そして、その手に入れた土地を企業などに売る、というビジネスが横行している。

 

 まぁ、国の土地といっても、ペルーのほとんどは砂漠地帯なので、砂漠に柵を立てて掘っ立て小屋を作って、権利を主張するというわけで、当然、警察から立ち退きも要求されるが、めげずに掘っ立て小屋を立て直して、数年経つと電気も通せるようになって、無事、彼らの土地になる、ということらしい。

 

 要は利用が全くされていない国が腐らせている砂漠地帯を個人の土地に変えているのである。

 こう聞くとまあそんなに悪いことではなくないか?という気がせんでもない。

 

「俺もやっておけばよかったよ」

 とSさんはしきりに話す。

 このSさんはガイドとして非常に敏腕だった。

 初日のナスカ遊覧とワカチナ湖のガイドをしてくれた。

 国の余計な事情のトークもうまいし、ペルーに関しての不必要な情報がどんどん入ってくる。

 口癖はペルーの悪いところを教えたあとに「ペルーへようこそ」。

 実際に、聞けば聞くほど、治安が終わっているというか、国が何もしないということだけは分かる。

 治安は最近さらに悪くなってきており、曰く「ベネズエラから犯罪者が押し寄せてきたせいで、ペルーの犯罪者がやることがなくなって困っている」らしい。地獄絵図。

 もちろん、リマの都市部は安全(夜中は知らん)だというが、不安にはなってしまうね。

 

 文化が素晴らしいのに、それを活かしきれていない。

 というか、ナスカの地上絵もその他インカ文化も研究しているのは国の人じゃなく、海外の国だ。

 

 まぁそういうしょうもない情報ばかり吹き込まれながらも、Sさんはとてもナスカの地上絵に関して熱心で、時には日本の大学と協力して研究したり、また、日本のテレビにも出たことがあるらしい。

 国に対する不満と文化に対する熱意の温度差が気になる人だったが、すごいいい人だった。

 

 下って、翌日。

 今日はパチャカマ神殿と旧市街観光の予定だった。

 この日は英語ガイドで英語に疎い私には言っていることの半分も分からなかったが、高速道路で「あのコンクリート工場は不法占拠して建てられた工場で裏にある国の土地から勝手に材料を取ってきている。しかし、勝手に掘った結果、地盤が悪くなり、その上の町の住居が崩れそうになっている。その町の住民も全部不法占拠。今、裁判になっているらしいが、どちらも正当性がないので金を持っている方が勝つ」と言っていることだけはわかった。

 嘘。昨日Sさんから聞いていたから、指を指しながらイリーガルイリーガル言っていたので、大体そういうことを言っていると察した。

 ガイドの人達の中でも鉄板ネタなのだろう。

 

 事件はパチャカマ神殿見学を終え、ランチした直後に発生した。

 店から出るとガイドさんも車もいなくなっていたのである。

 我々は取り残されてしまったのだ。

 午後からはリマ旧市街に行く予定だったが、特にそのあとのスケジュールも待ち合わせも伝えられていない。こりゃ困ったぞ。

 ちょっとその場で待ってみたが、埒があかず、諦めてホテルに戻ることにした。幸いにもホテルまで徒歩5分程度のところに取り残されていたので、自力で戻ることができたのだ。

 一旦、部屋に戻り、このあとの作戦会議をしようとした矢先、フロントから電話があった。

 午後のツアーから連絡があったと。

 つまり、取り残されたわけではなかった???

 我々は慌てて、ロビーへ向かう。

 しかし、待っても待っても何もやってこない。

 一体、どういうことだ?

 

 もしかして、ランチしたレストランの方へ迎えが来たのか?

 

 我々は焦ってレストランへ戻る。

 しかし、誰もいない。

 

 ここで不幸なすれ違いがあったみたいだ。

 我々が移動した隙にホテル側に迎えが来たらしい。

 

 もうボクらはわけが分からなくて混乱していた。

 とりあえず、ホテルのロビーを通し、ツアー会社と連絡をした。

 そうしたら数分後、折返しがあった。

 

 Sさんからである。

 

 悲しいすれ違いが発生したあらましはこうだ。

 午前のパチャカマ神殿のあと、午後からはバスに乗り換え混載ツアーになる予定だったらしい。

 それを午前のガイドさんが我々に伝え忘れ、待ち合わせ場所も時間も言わずに消えてしまったのが問題だったのだ。

 バス側もいると思った場所にボクらがいないし、困惑しただろう。

 そして、他の客もいるバスなので我々をいつまでも探し回るわけにはいかず、我々を見捨てて既にリマ旧市街へ行ってしまったらしい。

 なるほど。詰んだってことか。

 

 そうなると、今からタクシーでも何でも使って自力で旧市街に向かってみるか、諦めて近場を散策するしかないだr

 

『なので、旅行会社に確認をして、私があなた達をこの後、ガイドしてもいいことになりました』

 

 !?!?

 Sさん神か???

 

『ガイド代は無料で大丈夫です』

 

 !?!?!?

 Sさん神か?????

 

『ですが、移動だけお金がかかるので流しのタクシー拾いましょう。会社の車は高いので』

 

 いいよいいよ!それくらい払う払う!

 

『あと、今日、妻と予定があったので、ガイドに妻が同行してもいいですか』

 

 いいよいいよ!それくらい……え?

 妻が同行するの?

 なんか途端に申し訳なくなってきちゃったんですが……。

 せっかくのデートを……。

 

 ここでボクはこの発言のおかしさに気付く。

 彼は昨日、こう言っていた。

「数年前、妻と別れてクスコでガイドしていた時期があって」

 妻と別れて。

 おや?

 ということは今日このあと来るのは別れた妻なのか、それとも新しい妻なのか。

 

 結局、ボクは単純にSさんにガイドしてもらうのが嬉しかったのと(実質、日本語ガイドにグレードアップだし、昨日楽しかったし)、妻の正体が気になったのもあってそのまま承諾した。

 

 1時間ほどしてSさんが1人の女性を連れてホテルに現れる。

※奥さんは日本語がわかりません。

「どうもどうも、妻も一緒でごめんなさいね」

「いえいえこちらこそ、ありがとうございます。でも、奥さんとの大事な時間をいただいてしまって。というか昨日、奥さんと別れてクスコに行ったって」

「最近、12年振りに復縁したの。なんか新婚みたいで楽しいね」

 そんな大切な時間を申し訳ない!!!

 

 そこから2時間ほどSさんはボクらに付き合って旧市街を練り歩いてくれた。妻付きで。

 ありがとうSさん!ありがとう奥さん!

 みんなもリマに行く際には是非、備考欄に「ガイドSさん希望※聞いてくれたら名前教えます」と書いて旅行に行こう!

 

 では次は国内フライトなので再度ペルーでお会いしましょう!

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